五反田今昔ストーリー その十七
そう判断したのが早いか、その父親はHの前につかつかと近づき、そのつばきがすべてかかるようなところから、その思いのたけをすべて彼にぶつけたのだった。
「ウチの大切な息子に、なんということをしてくれたんだ!」
(いや、コートを脱がせただけだけど……)
「お前たちが無理に飲ませたんだろう!」
(いや、一人で勝手に飲んでたし、飲ませたのもどこかのオッチャンだし)
「いったいどう責任を取ってくれるんだ!」
(一人で飲んで、倒れて、吐いて、で、血出したんだけど……)
しかしHはカッコ内の思いを口にすることなく、ただうな垂れるだけだった。ほかの先輩諸氏もそれに倣った。
すると、突然、救命室のドアが開いて、若い先生が関係者を探している。彼に吸いつけられるようにして、Kの両親は前に出ていく。
「息子は、息子は、どうなりましたか。まさか、まさか……」
そういう父親の隣で、ヨヨと泣き崩れそうな母親。
「いえ、あのそのぉ、実はですね……」
医師はすがりつく両親に圧倒され、言葉を濁す。
「ダメなんですか。もう会えないんですか」
父親は先生の肩を揺する。
「アアアア……」
母親はついに泣き崩れる。
「実はですね……」
医師は同じ言葉を繰り返した。