五反田今昔ストーリー その二十四

 そして養老の瀧のおじさんは、サークルBOXのドアをノックする。
 「牛丼の出前、お持ちしました」
 おじさんはごく普通に、袋から使い捨てのどんぶりに入った牛丼を四つを取り出して、ぐちゃぐちゃといろんなものが載っているテーブルのどこかに場所を見つけては、それを置いていく。
 「千円になります」
 悪ガキ先輩がまとめてそれを立て替える。頼んだメンツが一人ひとり金を出すといった雰囲気ではない。
 「ありがとうございました」
 おじさんはそういって去っていく。平然とただ出前を届けにきただけのように。もちろんそれはそうなのだが、その後に「またよろしくお願いします」といっただろうか、それともそうはいわなかったか。たぶんいわなかっただろう。それが彼の最大限の意思表示だった、と思う。
 牛丼の出前を頼んだのは、それを食べたいからというよりも、はたして遥か彼方の五反田駅のさらにその先にある養老の瀧が、ここまで持ってきてくれるかどうかに関心があったのだ。
 悪ガキ先輩が電話をした時も、断られることを予想していた。しかしそんな学生の悪ふざけに、社会はしっかりと対応してくれた。それに彼はとまどいつつも、一つではまずいと思ったのか、周りを巻き込んで四つに増やした。よって悪ふざけの共犯者は増えることになる。自身の責任はこれで薄くなる、と考えたのだろうか。
 養老の瀧のおじさんが消えた後、サークルBOXには、気まずい雰囲気と腹をくすぐるにおいだけが残っていた。