五反田今昔ストーリー その二十七

 この太平山で飲んだ回数は、別にカウントしてはいないので、はっきりとはわからないが、いつものあいまいな記憶とやらに頼ると相当な数になるとは思う。
 そしてその店には当然のことながら、学校を卒業すると同時に、しばらく足が向くことはなかった。
 しかし、そんなその後の日々の中で、やがては何度かその店で同窓会ともいえないほどの身内的な飲み会を催したことになる。
 その度に、こちらも思想的にも外見的とか、いろんなところがどんどんと崩壊していくのに、この太平山だけが、店構えもメニューもまったく変わらずにあって、そのあたりが、まさにとても心地いいのである。
 そして十年ぐらい前だろうか、やはり遠くに住む先輩が東京に来るという、ありていの理由でもって、不思議なメンツが集まった機会があった。それぞれ見事にそれなりの経年変化をきたしているはずだが、しゃべる内容も、振る舞いも、言葉尻りも昔のままで、ついつい昔のほのかな思いまでもが、薄く沸き立つのではあった。
 もちろん、かのコップ酒が注がれる時、店員を目いっぱいにそそのかすことも忘れてはいない。(一旦終わってように見えて、続きます)