レモン味の握り飯

 法事に向かうために、珍しく埼京線を北上の途中、四割がたの空いた車内に高校生とおぼしき男の子が乗り込んできて、目の前に座る。
 彼はやわらコンビニ袋から握り飯(海苔パリパリタイプ)を取り出し、包装を剥がし始めてから手を止めて、今度は何かの液体の入った小さなボトルを出した。
 そして右手でキャップを開けて、その液体を左手の手のひらいっぱいに受けている。そして私には多すぎると思うほどの量を腕になすりつける。
 制汗剤か何かなのだろうが、その黄色いボトルのままにレモンと書かれたような匂いが漂いだす。彼はさらに二度、彼はその液体を受けて、胸やらなにやらに付けていく。
 この三度目の塗り込みを始めたとき、私はかすかにふき出してしまったのだが、彼が気づくこともない。そして彼はボトルを袋に仕舞い、また握り飯を取り出すと、そのままの手でいきおいよくほおばりだした。