北の想像力への極私的歩み その13

 しかしモータースポーツ雑誌はF1ブームの中、まさにレースそのもののように発行までの時間の勝負になっていく。
 今までの総合モータースポーツ誌ではなく、F1に特化した雑誌、それもレース後すぐにそのようすを報じる雑誌が求められていた(ような)のだが、わが版元は老舗ゆえにそのあたりは逆に後発とあいなる。しかしどんなに焦ったところで、発売日の二日前には取次に搬入する必要があるので、速報性には最初から限界がある。
 まあそういったバタバタを横目で見つつ、印刷のシステムがパラパラと変化していくのに、アタフタしていく日々ではあった。
 で、しばらくして今度は新車雑誌に異動となる。モータースポーツも嫌いではないが、マニアとはいえない程度。自動車についてはほぼタダのドライバーという以外の何物でもないが、お仕事だからしかたない。部署は私を含めて四人という小所帯。しかもみんな私よりも年上だった。
 その時期はすべての社員にワープロの供与が済んだあたりで、ミーハーというか、新し物好きなだったので、会社に「パソコンがほしいよ」と、ウィンドウズが窓なのか、風なのかわからない程度でいってしまい、シメシメと富士通製のパソコンをゲットし、四人のおじさんたちがワープロでパキバキやっている横で、ネットサーフィンの初心者として、波にさらわれること幾たびか。
 ところで今度の部署のK編集長は、田中光二さんの大ファンで、私が異動になる前から誌面にも何度か登場していただいていると、いたって自慢げなのだった。
「知っているかなぁ。田中さんってSF作家で、SF作家クラブの会員なんだよ」
 と、まるで自分がその会員のようにいう。
 そして光陰矢のごとし。そのK氏、まさか私(と渡邊さん)のSF評論賞贈賞式が、田中さんの300冊刊行記念パーティと同時に開催されるとは夢にも思わなかっただろう。