皆既月蝕拾遺 その六

 そして皆既絶食、じゃなかった皆既月蝕というイベントで、みんなの興味がふと月へと向かうこんな夜に思うことは、やはり四十年ほど前のこと。
 アポロ計画は11、12、14、15、16、17号の都合六回のミッションで、12人の人間を月面に運びましたが、月の周回軌道まで行った人間を含むと、さて何人でしょうか。


 はい、上記のミッションの司令船パイロットが6人、そして月軌道を回って帰ってきたアポロ8、10、13号の各三人の乗組員を足して、ええっと……30人ということになる。ちなみにアポロ9号は地球周回軌道で月着陸船の実験をしています。
 そんなアポロの日々、つまり日常的に月面上やその軌道上に人がいる時代に、感慨深げにその月を眺めていた記憶がある。
 天空たかくやや黄色っぽい月を観て、あああそこに白っぽいガサこそいいそうな(月面は真空なので外ではそんな音はしないけど)宇宙服を着たアメリカ人が、そのあたりの石を拾いまわっているのか、そしてその上空を飛ぶ司令船にもやはり一人のアメリカ人が乗っているんだなぁ、とそんなことを思っていた。
 そして今日もまた月が昇る。
 今日の赤い月は、月蝕の時の月ではなく、その数日後、北区の花火大会を窓から眺めていて、気がつくと、東の空にぽっかりと浮かんでいたのだ。
 たぶん私やあなたが生きている間、その月に誰かが行くことないだろう。それほどその日の月は遠くにあった。