皆既月蝕拾遺 その八

 月がなぜいいかというと、当然のことながら肉眼で唯一、その何たるかを確認できる天体であるからなのだろう。
 ところがどういうわけかどう見えるかは古今東西違っていて、日本ではお決まりのウサギが二羽だが、カニだったり、長い髪の女だったりもする。
 見た目での大きさは太陽と月はほぼ同じ、でもって、ゆえに皆既日食が見事に起こるけだが、そんなときでもない限り、太陽を見ることはほぼ不可能で、それでもしっかりと遮光しないと網膜に傷をつけてしまう。ゆえに月は誰の目でも楽しむことのできる天体なのだ。
 ところでまた昔話。
 高校時代に仲間と共同研究とやらをしているときに、お遊びに満月近くの月を肉眼で観て、その模様をスケッチするなんていうことをした。
 といっても、こういってはなんだけど、私以外はほぼ望遠鏡を覗いたことのないメンツで、当然のことながら予備知識やはたして月面がどんな感じなのかを知るよしもなし。
 で、目をパチパチさせつつ、最初から円が書いてある火星や木星スケッチ用紙に、みんなが描いた月のようすは、ウサギでもカニでも長い髪の女でもなく、ただアメーバが増殖しているような図なのだった。
 でも私はなんとなく海のカタチと微かにチェコ・クレーターなどが見えるので、それをそのまま描いた。そう確かにそうに見えたのだけれど、もしかすると、すでに知っていることがそのまま眼球に投影したのかもしれない、とも思う青春の日々ではあった。

★ここで問題です。この写真が撮られた時刻はいったい何時ぐらいなのでしょうか。