皆既月蝕拾遺 その九

 月を眺める映画のシーンで、何が一番かというと、まさにいわずもがなではあるが、やはりタルコフスキーの「ノスタルジア」で描かれたあのシーンを置いて他にない。
 それは主人公の夢幻のごとくに現れた故郷と家族、そして家、それはそのまま主人公、そして監督自身がロシアに残してきた最愛のすべてであるのだろう。
 家の前にバラバラに立つ家族たちはゆっくりと視線を自分たちの背後に移していく。やがてその視線の先、家の屋根の上に白く輝くものが現れる。
 それは彼ら急にその存在を気付くことから、陽の光、あるいは何らかの爆発にも思えるのだが、メイキング映像の中で、監督が「ルナ、ルナ……」と叫んでいることからすると、まずは月と考えていいだろう。
 うーむ、また「ノスタルジア」が観たくなった。