一つの屋敷を巡るお話

 土曜日のテレビ番組「美の巨人たち」は、エドワード・ホッパーの「線路沿いの家」が題材だった。と、改めてこの絵を観ると、アレレ、どこかでお見受けいたしませんでしたか、となるのだが、番組では、それを早々にバラしてしまう。
 そう、この絵が何かの映画のモチーフになっているといわれれば、観る人はほぼ気づくだろう。ヒッチコックの「サイコ」のアンソニー・パーキンスが住んでいた、あの屋敷なのだ。
 番組ではホッパーが描いたこの絵の屋敷が、いったいどこにあるのか探偵が探し始めるわけだけど、彼の前のテレビに「サイコ」が映し出されているんだから、気づかないわけがない。で、結局、その屋敷は見つかって、現在も存在していることがわかる。絵画の手前に描かれている線路も、位置関係は違うけれどもちゃんと存在している。
 もちろん「サイコ」の撮影に使われたのは、絵のモデルになった屋敷とも別物、当然、撮影のためにセットとして建てられたのだろう。
 番組が終わったあと、手元にある「エドワード・ホッパー展」の図版を見ると、展示絵画の中にはなかったが、巻頭文でその絵が「サイコ」のモデルになっていることが触れられている。
 ところが、ヒッチコック『映画術』トリフォーの「サイコ」の記述の中では、このことに関する記述は見当たらない。ただヒッチコックは、「あの屋敷は実際にあった家の正確な再現だった」といっている。
 ただし、映画のスチールと絵画を比べるとかなり違う部分がある。ヒッチコックの言葉を信じるならば、実在の屋敷は、ホッパーの絵画ではなく、「サイコ」のセットに近いことになる。ええっと、「美の巨人たち」の再放送って、いつだっけ。