あおき、みずくさ、ひぐちいちよう

 今日は会田誠展をちょっと脇に置いて、また別の話。
 深夜、ツレが観たいというので、テレビの「恋する一葉」という番組に付き合った。一葉というのは樋口一葉のことで、彼女をモデルにした芝居を大学の演劇科の女の子たちが演じるまでを、ドキュメントタッチのドラマで描いた作品だった。実際に放映されたのは2005年の正月だという。
 まるで「惑星ソラリス」の水草のようなシーンが現れて気持ちよくなっていたが、それからあとはいただけない。まずは主人公格の二人が、電車の中で読んでいる本がスゴイ。一人は『蹴りたい背中』、そしてもう一人は『太宰治全集』である。それをカバーも付けずに読んでいる。こういったある意味の軽さが最後まで続く。演劇に夢中だった日々を思い出し、これからの自分のことを考えて涙する彼女もまた軽いのである。彼女たちなりに演劇や未来について真剣に語っているのだけれど、その認識の部分にまったく重さが感じられない。その軽さは、深められていく一葉の重さと対比させるためにわざとそうしているのかと、うかつにも疑ってみたくもなる。
 というわけで、その演劇科の彼女たちにと何の共感も感じないままだったが、一葉を知るためにと入る古書店の店構えが、遠い記憶をつんつんとつつく。
 間口の広さ、窓の大きさ、緑色の窓枠。これはどこかで見た風景だ。しかしそれは間違いなく早稲田でも神保町でもない。ではそれはいったいどこか。
 その答えはすぐに分かった。古書店の店頭をそのまま本の表紙にしている本があったはずだ。たぶんアレだ。と思って、テレビの前から立ち上がって本棚へと向かう。
 川本三郎さんの『映画を見ればわかること』。
 その本の表紙カバーは裏にまで古書店の店構えが続いている。店の名前は青木書店、堀切菖蒲園駅の目の前で営業しているという。
 番組には店の青木正美さんも登場して、前半では無口の店主を演じていたが、後半になると彼の一葉に関する文学史的発見が明らかになる。自分としては、はっきりいってうまいとはいえない演劇女子たちの演技よりも、青木さんの「演技」に引き込まれた。
 この川本さんの本の発行は2004年の10月だから、表紙撮影と番組の撮影はかなり接近していたに違いない。
 ちなみに冒頭とそれから何回も出てくる水草のシーンや一枚の葉が流れていく場面は、一葉というペンネームから来ている。