お話、お話・・

『第2会議室にて』16

2008年7月14日① 午後4時過ぎ、福田和彦が出先から社に戻ってパソコンを開けると、中西信也からのメールが届いていた。内容は、今日の午後6時に第2会議室でミーテングを開くという簡単なものだった。会社に提出する質問状の件だろう。 5分ほど遅れて福田…

『第2会議室にて』15

2008年7月10日⑪ 「またビールでいいですか」 太田章はそれを村上悟に確認すると、自分のレモンサワーといっしょに注文した。 「ちょっとおもしろくなってきましたね」 「おもしろいことなんかあるもんか」 村上はつまみを頼みたくなって、メニュー表を見る。…

『第2会議室にて』14

2008年7月10日⑩ 太田章と村上悟は、ちょっと早足になって駅の近くのビルにある居酒屋に向かった。エレベーターで6階まで上がると、扉が開いたとたん、客たちのざわめきが彼らを迎えた。村上はこの感覚は嫌いではなかった。太田は店員に対して指を二本立てた…

『第2会議室にて』13

2008年7月10日⑨ 執行部会から戻ると太田章の机の上には、半透明のファイルからこぼれそうなほどの枚数の現金請求伝票が載せられていた。もう誰も経理部の社員は残っていなかった。これは明日の仕事だ。それでなくてもいつもより2時間も遅い。そしていつもの…

『第2会議室にて』12

2008年7月10日⑧ 委員長の中西信也は午後11時に自宅に着いた。会社ではまた雑誌広告に間違いがあって、印刷会社とのやり取りに時間を取られてしまった。組合執行部の話合いのあと、彼はまたタイムカードを押して仕事に戻ったのだ。編集部と違って彼の部署には…

『第2会議室にて』11

2008年7月10日⑦ 福田和彦がダイニングに通じる扉を開けると、ちょうど妙子がテーブルに料理を運んでいるところだった。 「あら、今日は電話がなかったわね」 そのとき初めて福田は気づいた。彼はいつも会社の帰りに、何時ごろ家に着くか連絡を入れていたのだ…

『第2会議室にて』10

2008年7月10日⑥ 福田和彦が西武池袋線のホームに上がると、各駅停車がちょうど入線してくるところだった。まず右側のドアが開き、降りる客がホームへ出る。少し間があって左側のドアが開く。福田は難なく席を確保した。向かい側の窓に自分の顔が写っている。…

『第2会議室にて』09

2008年7月10日⑤ 質問状の中身は、委員長の中西信也が二、三日中に考えてくることになった。そこでまた執行部会を開いて、正式な書面にする。それを確認して各々は第2会議室を出た。 組合執行部のみんなと別れて、福田は自分の席に戻る。しかし仕事を続ける…

『第2会議室にて』08

2008年7月10日④ 「それじゃ、抜けた石川さんが副委員長だったので、福田さんがそれも引き継ぐということでいいですね」 委員長の中西信也がいう。 「石川さんって、副委員長だったのか。それじゃまあ、しょうがいないだろうな」 「それすら知らなかったんで…

『第2会議室にて』07

2008年7月1日② 福田が会議室に入ってくるのを待ちかねたように、5つの顔が彼の方を向いた。内線をくれた太田と制作部の中西信也、広告管理部の村上悟、外車雑誌編集部の向井良行、そして2輪編集部紅一点の河北たまきの5人だった。部署の名前を思い浮かべる…

『第2会議室にて』06

2008年7月10日① 5ヶ月ほど前に話は戻る。 福田和彦はパソコンに向かっていた。画面には、走っている自動車が小さく何枚も表示されている。プロのカメラマンが撮影したので、そのほとんどはしっかりとピントが合っている。福田がその中の一枚にカーソルを載…

『第2会議室にて』05

2008年12月5日⑤ 「つまりは、こんなことだと思う」 福田和彦はまずそういって始めた。 自動車雑誌を主な媒体とする社員120名ほどのモータータイムズ社と、自動車のアフターパーツ関連の雑誌とモータースポーツ雑誌を主体とする社員80名ほどのカーライフ出版…

『第2会議室にて』04

2008年12月5日④ 6人の組合執行部員たちは、打ち合わせスペースの丸テーブルをふたつ合わせて、そこに座った。それぞれが来るものが来たと思っていた。しかしその直前までほんとうに来るのかどうか、もしかすると来ないのではないかという、一縷の望みさえ…

『第2会議室にて』03

2008年12月5日③ 福田は、しゃべり続けるこの石原常務取締役の収入がいったいどのくらいなのか、本人を前にして考えていた。石原は1年ほど前、取締役になったときに退職金を受けとっている。その時はまだ福田は石原を信頼していた。ふた昔も前、福田が入社し…

『第2会議室にて』02

2008年12月5日② 三ヶ月ほど前、労働組合執行部はこの合併に関する、あとから考えると最後の質問状を提出していた。ひと月後に返ってきたその回答は、いつものようにまったく誠意に欠けていた。 会社側は労働組合の質問に対して、なんら明確な回答を寄せるこ…

『第2会議室にて』01

このカテゴリー「お話、お話」はすべてがフィクションです。他のカテゴリーがほぼ本当にあったことを書いているのに対して、ここに書いていくことは、すべて私の妄想に過ぎません。しかし文章というものはえてして読み手に感情移入を要求し、さらにはそこに…